僕等は、農地を放置して引っ越したわけだが、
そんな犠牲を払ってまで引っ越した最大の理由は両親が弱ってしまったこと。
これに尽きる。
五年前はピンピンしていたのに、
今や父は施設に入所し、母は言動が怪しい。
いわゆる認知症。
親の実家には広い宅地があり、
いろんな他人様がご利用していた。
土地というのは、税金をキチンと払っていてもダメだ。
いつの間にやら他人のものになってしまうのだ。
興味のある人は「取得時効」を調べたらいい。
天草でもそういう話は聞いたが、
どうやらここ熊本では勝手に土地の境界を動かすことはごく当たり前のようだ。
関東地方の方には信じられないかもしれないが。
実際、我らが土地を、まるで自分のもののような面をして使ったり、
通ったりしていたご近所さんがいたし、今でも少しだけいる。
僕等が敷地内を歩いていると、
ゴルフボールが足元に転がってくる。
数ヶ月前まではそうだった。
随分潰してきたが、なかなか根絶は難しい。
天草では、家も畑も借りていたが、
借りている家とか土地というのは自由に使えないことが色々あって、
不便と不満を感じていた。
意外に感じるかもしれないが、
僕等の住んでいた天草の地域は、
宅地も農地も余ってはいなかった。
山は余っているが、平地は足りないのだ。
だから、人口は減っているけど、土地は全然余ってない。
一方、同じ県内の親の実家に引っ越せば、親の土地が自由に使える。
薪ストーブ、鶏、山羊、倉庫、工作室、アトリエ。
天草で出来なかったことが、出来るようになる。
随分迷ったが、引っ越すことに決めた。